暗中疑心

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まるで、突風にあたったかのように兵達はなす術なく爽快なまでに吹っ飛んでいった。 あれの動きは馬鹿ではない。 本気で突破できる自信がある者の動きだ。 ――であれば間違いない、あれは万夫不当の豪傑だ。 そう呟いた途端、孫策の胸奥から熱いものが込み上げてきた。 あの武勇、最早疑いようがない。 我が待ち望んでいた最大の好敵手。 俺は奴と一度でもいいから戦ってみたかった。 自分の武勇が天下に届くか試してみたかった。 一騎は包囲を突破すると、本陣の方まで迫ってきた。 また、背後からはたった千人の騎兵が追いついてきた。 十万の大軍を前にしても、恐れを知らぬ千人の騎兵と万夫不当の豪傑。 優秀な将を集める曹操の軍とて、それほどの武勇を持つ将はやはり一人しかいない。 一人の兵がその将を指さし叫んだ。 「ひ、ひいい?!呂布だ!呂布が出た!!」 兎の如き素早さを持つ赤き駿馬。 鉄をも砕くと言われる名品、方天画戟。 人中ただ一人、天下無双の呂布、字を奉先その人であった。 その背後には、千の騎兵を指揮する張遼、そして副将の李献の姿があった。 騎兵の到着と同時に呂布は兵を蹴散らしながら陣へ戻り、やがて先頭に立った。 「さて、匹夫の勇がどこまで通じるか。そこの孫策隊を相手に見せつけてやるか」
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