<1>真相

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「・・鏡が・・・」  我に返った美麗は、割れた鏡に駆け寄った。自分にとって何よりも大切な”美”を得る魔法の杖、ブラック・アプロを呼び出すための唯一のツール。それが失われてしまった。 ――どうしよう。  テープでつなぎ合わせて元通りにならないかと、大きな破片を拾ってみる。だが、そこらじゅうに散らばった小さなかけらがウィスキーのボトルの破片と混ざってしまい、拾い集めることさえ難しい。  手に取った破片を、美麗は力なく床に捨てた。もう、二度と魔女に会うことはできない。このまま来月の誕生日を迎えたら自分の姿は・・・。  ふと彼女は、そばに横たわっている和哉に目をやった。 「あなた・・?」  軽く背中をたたいてみる。すぐにでも目を開けるかと思ったが、和哉のまぶたは固く閉じられたまま、全く無反応だ。 「起きてよ。ねえ、あなた、起きてよ」  今度は少し強めに、肩や背中を揺さぶった。だが夫はピクリとも動かない。彼女の顔から血の気が引いた。 ――死んだ?  正確には殺したのだ、自分が。 ――逃げなきゃ。  動転した彼女の頭には、それしか思い浮かばなかった。とにかく、この場から離れなければ。自分はここにいなかった、そういうことにしなければ。  力の抜けそうな足で何とか立ち上がると、彼女はリビングを出て玄関の方へ走っていった。が、すぐにUターンして部屋に引き返した。 ――車のキーはどこへ置いたかしら。  愛車のカードキーは、たしか昼間、娘と出かけるときに着ていたセーブルのコートのポケットに入れたはずだ。必死で部屋の中を見回すと、コートはソファの上に脱いだままにしてあった。すぐそばにバッグも見つかった。  バッグの中には、キャッシュカードの入った財布も入っている。これがあれば、しばらくの間はお金に困ることもない。
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