第一章

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ユウリと別れて少ししてから屋上を後にした。 向かう先は下駄箱ではなく、古い離れの校舎にある美術室だ。 校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いていると、吹奏楽部の奏でるメロディが聞こえてきた。 この曲は確か、今流行りのアニメの主題歌で、アニメ好きの雄大がカラオケで熱唱していたっけ。 音痴なくせに90点以上とるまで歌い続けると意気込み、結局20回以上聞かされたからよく覚えていた。 そんなどうでもいいことを思い出しながら、すっかり人気のなくなった校内を早足で進む。 廊下を歩きながら、ふと窓に目をやる。 赤く色付き始めた空は綺麗なグラデーションを作り、まるで大きなキャンパスに描かれた一つの絵画のようだ。 グラウンドで練習に励む運動部の力強い掛け声が遠くから響き、青春だなぁとボンヤリ思った。 中学時代、毎日泥塗れになるまで夢中でボールを追っかけていたサッカー部を思い出す。 あの時は高校生になっても続けるものだとばかり思っていたが、昨日までの僕は帰宅部で、そして今から美術部へ入ろうとしているなんて... あの頃の僕がこの現実を知ったら何と言うだろう。 美術室に近づくにつれ、油絵の具の独特な匂いが鼻を掠める。 この匂いは嫌いじゃないが、教室の前までくるとニスやのりが入り混じった匂いまで加わり、軽く眉を顰(しか)めた。
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