第一章

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そんなことを悶々と頭の中で考えていると、再び副部長さんが口を開いた。 「宮野ちゃんはね、普段は滅多に絵を描かないんだー。」 「美術部なのに、ですか?」 「うん。普段はモデル担当だからねー。 ほら、あの子お人形さんみたいに可愛らしい顔してるじゃない? うちの顧問がえらく気に入っちゃって。 荒木先生の専属モデルなの。」 「...荒木先生の専属モデル...って...」 荒木一輝。28歳独身。 知的で堅苦しく、一見近寄り難い雰囲気をまとっている。 しかし授業は面白いと、女男問わず人気の美術担当の教師だ。 そんな僕も彼の授業だけはサボらず毎回出席している。 「荒木先生のイメージにピッタリなんだって、宮野ちゃんは。 宮野ちゃんも他の人とは距離を置くのに、荒木先生には懐いてるの。 それが子犬みたいで可愛いのよー。」 宮野美鈴が子犬のように、先生の後ろをヒョコヒョコついて行く様子を想像する。 ...何だか面白くない。 この時の僕はまだ、何故こんな感情を抱くのか分かっていなかった。 宮野美鈴にただの興味だけでなく、恋愛感情をも抱き始めていることに気が付くのは... もう少し先の話。
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