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理空(ことわり そら)は、乱入者のことをしっかりと観察し終わった後、乱入者と例の先生が討論し合っている間に、立ち上がったまま茫然としていた流堂(りゅうどう)に、小声で声をかけていた。
「……流堂くん……、……流堂(りゅうどう)くんっ!」
先生と乱入者が怒鳴り声に近い声色で討論していたために、理空(ことわり そら)が放ったその声が届くかどうか心配なところであったが、しかし流堂にはちゃんと、その声がうっすらと聞こえたようで、その声によって我に帰った流堂は、彼から見て左後ろに座る、理空の方に振り向いた。
「……な、なに? …………どうした?」
乱入者の一件によって、先ほどの先生に対しての怒りが抜けたようで、流堂は鬼のような憤怒の形相から普通の顔に戻っていた。
頭に疑問符を浮かべながら、理空に自分を呼んだ理由を尋ねた。
理空は、先生と乱入者、二人の様子を横目で見ながら、彼に向かって言う。
「今のうちに、座っていた方が良いよ。今がこんな状況だから、このまま黙って座っていたら、流堂くんが声を荒げて先生と怒鳴あっていたことが、うやむやになるかもしれない」
理空の意見を聞き、納得した流堂は、彼女の意見に従って、バレぬよう静かに座席に戻り、腰を下ろした。
それからすぐに、先生の話に押され、声を荒げてしまったことを、鮮明に思い出したようで、肩身の狭そうな様子で、首をすくめていた。
それを見て理空は、やはり流堂はそんな簡単に声を荒げるようなタイプには見えない、と感じていた。
簡単に声を荒げるような人は、自己の主張を強く持っているため、突発的なことであっても、人からの助言などに対して、反発しようという意志が感じ取れるものである。
しかしそれが、流堂からは感じられなかった。
それに、簡単に声を荒げるような人は、素直に見えないものである。
やはり流堂は、見た目が少し遊んでいる風であっても、根は純粋で真面目な人なのだろうと思う。
もしそうだとすれば、疑問が浮かび上がってくる。
そんな、根は純粋で真面目、簡単に声を荒げたりしないはずの流堂が、なぜ今回のこの授業のときに限って、声を荒げてしまったりしたのか。
先生がムダに熱く語っていた、先生特有の自論の、いったいどの辺りに、流堂の逆鱗に触れるようなところがあったのか。
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