5.

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 その声を聞いて、乱入者が振り返る。  乱入者は、彼女の姿を目で捉え、彼女の方へ向いた。  叫び声からして、乱入者はいかつい女性を想像していたけれども、視界に映してみると、運動系の爽やかな女性のようだったので、少し動揺した。  乱入者は、理空に対して、動揺を隠しきれない様子で尋ねる。 「何がだ? 何が、絶対にあるわけがないんだよ?」  それに対して、拳を握りしめた理空は、はっきりした口調で答えた。 「【青春】が空っぽだなんて、そんなこと、絶対にあるわけないよ」  乱入者が怒りで肩を震わせる。  堂々とその台詞を言い切った理空に向かって、乱入者は下を向き、何かをこらえるような雰囲気で、怒りを込め言葉を放つ。 「だから、さっきも言っていただろっ! ――俺はな、十代二十代は勉強漬けの生活で、友情、恋愛、思い出とは、無縁の生活だった。彼女ができたこともない上に、女友達ができるどころか、男友達すら居たことがない。遊んだこともなければ、旅行などということもしたことがない。学生時代に心に残るような、そんな思い出なんて一切ないんだ! ――そんな俺の学生時代の、いったいどこに【青春】なんて煌びやかな言葉が存在するんだよっ!」  理空は、それを聞いたあと、一度大きく深呼吸をした。  堂々としているように見えて、実は彼女も恐怖を抱いていた。  そのために、彼女の膝が、小刻みに震えていた。  それを少しでも和らげるために、呼吸を整えたのだ。  心臓の激しい動悸も少し治まり、若干平静を取り戻しつつある理空は、声を荒げる乱入者に対し、諭すような口調で説いた。 「【青春】は何も、絶対に仲の良い人と接することでしか、生まれないわけではないのよ? 彼女を作って、彼女と一緒に過ごさなくても。友達を作って、友達と遊ばなくても。どこか旅行に行って、記念を残さなくても。それでも何かあれば、それは【青春】って、呼ばれるものなんだよ?」
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