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そんな微妙な空気が続き、クリスマス前日、大島から明日飲みに行かないかといつものようにメールが来ました。このところの鬱憤をはらそうというのもありましたが、二つ返事でメールを返しました。クリスマス。私は少しお洒落をして出かけました。ワインレッドのワンピース、白のウールのストール、黒のヒール。髪もハーフアップにしてパールのイヤリングも付けました。こんなタイミングでなければ女の子の自分を飾れないからです。普段はグレーや紺、黒のスーツ。もしくはブラウスにタイトスカート。女を意識したファッションは自ら遠ざけていました。だってあまり、女を意識した格好って、職場では、とくに大島の前ではワザとらしくて出来ませんでした。変な噂を立てられても、リーダー職にある私は立ち位置としても面倒でしたし。
でも……今夜は違う。それよりも何よりもクリスマス、勝負の夜。私は普段とは全く違う自分を演出して、大島を誘おうと意気揚々と出掛けたのです。入念に化粧もし、甘い花の香りのする香水もつけました。
しかし、私の予想はひっくり返されました。待ち合わせの地下レストランに行くと、いたのは大島ひとりではありませんでした。桜ちゃんもいたのです。ひょっとしたら、ただ、来る途中で桜ちゃんとばったり出くわして、大島が誘った……そんな妄想も一瞬のうちに脳内を駆け巡りました。でもそれもすぐに打ち消されたのです。テーブルを挟んで2脚ずつ並ぶ椅子の、その並んだ2脚に2人は座っていました。ニマニマとする大島、俯く桜ちゃん。どこからどう見ても2人が会社の知り合いという仲でないのは明白でした。
頭の中は真っ白になりました。そんなときほど、作り笑顔は出るものです。私はニッコリと微笑んで、「そういうことなら早く言ってよ、もう!」と大島と桜ちゃんを茶化しました。大島は額から顎まで真っ赤に染めて頭をボリボリと掻きました。私は、おめでとう!、クリスマスだしカップルで仲良く!と笑顔で言い放ってその場を立ち去りました。だって私は邪魔者なんですから……。
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