第1章

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それを知って問いかけてきたであろうナビシートの恋人が、じっと矢代の答えを待っていた。 「似てたんよ。自分と」 「……小鳥遊が?」 鏡を見たことがあるのかと言わんばかりの強調された疑問形に、いやいやと苦く笑って首を振る。 「早乙女も、小鳥遊も。まだ子供で、でも相手を好きだと思う気持ちは本物で。お互いわかっているのに…どうにもならなくて。傷ついて」 「矢代先生にも…そんなことが?」 「俺の場合は、片思いやったけどな。…だから、似てるといっても程遠いんやけど、なんか…ほっとけなくて」 「そう…だったんですか」 「後は?」 「え?」 「なんかあったんやろ? 学校で。俺が小鳥遊と話してたくらいで…潤があそこまで妬いてくれるとは思えんし」 「中原…先生…が」 ちょうど車が首都高のガード下に入り、響く走行音が雨宮の声を掻き消す。 「ん?」 「いえ。なんでもないんです」 きっと中原は矢代のことが好きなのだ。矢代と雨宮の関係に感づいていても…。 だから、あんなことを言ったのだろう。 『しっかり捕まえておかないと、ホントに盗っちゃいますよ?』 それならしっかり捕まえておけばいいのだ。外野の声に脅えて矢代の気持ちを疑うより、自分の気持ちを信じればいい。 「ちょっと…不安になっただけです」 チラリと流し見る矢代に微笑みかけ、雨宮は窓の外に視線を移した。右手を、そっと恋人の膝にのせて――。 「潤」 「…はい?」 「小鳥遊送ったら…俺んちに来るか?」 「…はい」 右手をそっと包む矢代の大きな手が、――暖かかった。    おわり
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