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宗助は子供ながらも楽人を守ることで独り占めしている満足感を味わっていた。自分がいなければ楽人は駄目なのだと。完璧に役をこなすことで互いの両親にも周囲にも、そして楽人自身にもそう思い込ませていた。
――確信的に。
やがて少年の体に二次成長という変化が訪れる。理性の成長を待たずして押し寄せる性の目覚めは、潔癖と嫌悪、後悔と屈辱をその純粋な心に深く刻み込む。
――ほの暗く甘い快楽と愉悦を滲ませて。
中等部に上がったばかりの頃。
珍しく体調を崩した宗助は、学校を早退して家路についた。
どうにも気分が悪く声を出すのも億劫で、ただいまも言わず自室へと続く階段を上がると両親の寝室から何か物音が聞こえてくる。
宗助の家は共働きで、母は夕刻にならなければ帰ってこないはずだ。玄関に母の靴は無かったし鍵も閉まっていた。
一瞬にして走る緊張。
二階の窓から猫が入り込んだのかもしれないと己を勇気づけ、宗助は足音を忍ばせて寝室のドアへと近づいた。
きっちりと閉まっていなかったドアを静かに引き、片目でそっと中を覗き見る。
――白い肌に、ウェーブのかかった栗色の長い髪が、流れるようにはりついていた。
苦しそうに眉をひそめ、赤い唇を噛み締める表情は楽人が転んで痛がっている時の顔とよく似ている。
着衣のない白い太ももを撫で上げてきた男の掌は、柔らかな膨らみを荒々しく握り、指先で先端の突起をくすぐる。
あっ、と弾かれたように白い体が跳ね、人魚のように張り出した丸い腰が、横になった男の上でゆらゆらと淫らに蠢いていた。
ドクン! ドクン! ドクン!
宗助は自分の心臓が痛いほど大きく脈打つのがわかった。
体が固まってしまい逃げ出すことも目を逸らすことも出来ず、ただ耳につく声音と息遣いに胸を締め付けられるばかりで、恐怖にも似た緊張に吐き気と眩暈が襲ってくる。
部屋の中ではまだその行為に没頭するふたりが宗助の存在に気付きもせず、甘い声音は次第に大きくなってくる。
もう見たくない。聞きたくない。
宗助がそう思った時、玄関の扉が開く音がした。
「宗助―。帰ってるのー?」
学校から勤め先に連絡があったのか、明らかにいつもより早い帰宅である母親の声が階下から届き、反射的に宗助は自室へと逃げ込んだ。
その後、二階に上がって来た母と寝室の二人が出くわし、我が家は修羅場と化す。
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