第1章

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でも、そのちっとも似ていない彼に矢代は本気で恋をしていた。 一回りも年下で、素っ気無くて、いつも折り目正しく敬語を使い、真っ白な白衣とメタルフレームのメガネで壁を作り、決して本心を見せようとしない彼に。 見せないようにと必死になればなるほど、真の心情が透けて見えるというのに。 正直、雨宮に好かれている自信はあった。 そうでなければ思いを告げたりなどしない――。 矢代が軟式テニスの軟らかいボールをぷにぷにと掌で潰しながらグラウンドを見渡せば、そろそろ5時間目が終わるのか、体育の授業を受けていた生徒達が集合して担当教師の話を聞いていた。   ※  ※  ※ 「ごめんな。俺、今まで嫌なヤツだったろ」 「宗…ちゃん」 「宗ちゃん…は流石に恥ずかしいな。早乙女って呼べよ」 ――その日の放課後、誰も居ない教室。少年が二人。 宗助ははにかんだ笑みを浮かべていた。 あの絶交から三年、宗助の周りにはいつでも棘のある空気が張り詰めていた。誰一人として彼に触れることは出来ないのだと誇示するように。 でも、いま目の前にいる彼は、もっと昔の宗助と同じ雰囲気を纏っている。楽人を優しく暖かく包み込むような、宗助を兄のように感じていたあの頃と同じ。 「三年前…さ。俺んち親が離婚して…いろいろあって。俺もまだガキだったし素直に納得できなくて…荒れて外でいろいろ悪いこともしたし、楽人にも…酷いこと言っちまった」 「離…婚?」 「あれ? 離婚したのも知らなかったのか? あぁ。お前んちそういう話、しなそうだから無理ないか。…にしてもお前ってホント……」 宗助の顔が僅かに歪む。自嘲的ともいえる笑みに隠された何かに背筋の寒くなる感じがしたが、楽人は嫌なことを思い出させてしまったのだと自分の言動を悔やんだ。 「僕、何も知らなくて…ごめんね。宗…早乙女君」 「早乙女でいいって」 「早乙女…ってことは、おじさんと一緒に暮らしてるんだね」 「…ああ」 いっそう宗助の顔が曇り、益々気まずい雰囲気が満ちる。 「あの…話って、そのこと?」 「あっいや、ごめん。違うんだ」 考え込んでいた宗助が思い出したように顔を上げ、胸の前で両手を振る。その申し訳なさそうな笑顔に、楽人は緊張を解いて微笑んだ。 「ううん。…で、何?」 「その…」
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