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体育館から聞き慣れないトーンのざわめきが聞こえ、それが父兄たちの声だと気付いた。楽人の両親も来ているだろう。仲の良い夫婦よろしく可愛い息子の成長に目を細めて喜んでいる姿が目に浮かぶ。
楽人の母親の淫らな姿は、今でも宗助の脳裏に焼きついていた。
嫌悪感から楽人との付き合いを拒絶したものの、それが欲望の裏返しであったことに気付くまで、たいして時間はかからなかった。
――初めて感じる局部の熱。
腹の痛くなるような感覚と、思考がそれに奪われていく戸惑い…自分の一部が形を変えて欲を吐き出したいと訴えていた。
どうにもならなくて手を添えれば、痺れが突き抜けるような快感に襲われ、宗助は欲望に突き動かされるまま手を動かした。
強張る体と薄れていく理性、荒い呼吸に刺激されてあの日の映像が鮮明に蘇る。
白い体、栗色の髪、小さな唇を噛み締めて男の上でくねらせている淫らな淵に堕ちた天使――。
ゾクリと背筋を何かが駆け抜けた瞬間。宗助の脳裏に映し出されていたのは彼女ではなく楽人の顔だった。記憶にある淫猥な母親の肢体に、楽人の幼いままの無垢な体を重ねていた。横になった男はいつしか自分に入れ替わり、激しく楽人の体を突き上げていた。
それは初めての…自慰だった。
狂おしいほどの欲求と後悔。
自己嫌悪と甘美な誘惑。
その日から何度も楽人を思って果てる自分に思い知らされた。
――己の根底に渦巻く楽人への思いを。
ベランダ伝いに楽人のクラスまで移動し、開いていた窓から教室へと入る。しんと静まり返った室内に、ふと目に留まる朱鷺色の点。歩み寄って見れば、それは卒業生全員に配られた胸に付けるリボンだった。
宗助も配られたがズボンのポケットに押し込んだままにしてある。
床に落ちているリボンを何気なく拾う拍子に、椅子に貼られた名前が目に飛び込んできた。
『小鳥遊楽人』 宗助はしばらくその名前を見つめ、手の中のリボンをそっと学ランの内ポケットへと落とした。
(あの時楽人に会わなければ…この気持ちに気付くことも無かっただろうか…)
自室のベッドに背中を預け、床に座ったまま宗助はタバコに手を伸ばす。矢代に注意され続け本数は減ったものの、まだ完璧にやめられてはいない。ベッドの下から灰皿を引きずり出し、その中に入れてあったライターで火をつけた。
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