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電気を消した室内、赤い炎がわずかに眇めた少年の顔を照らしだす。先端がポウっと灯り、ライターの火を消すと、ゆっくりと紫煙が立ち昇っていった。大きく吸い込んで軽い酩酊感を味わう。
『宗…ちゃん?』
久しぶりに見る楽人の顔は少し大人びて見えた。砂糖菓子のような淡く儚い印象は変わらないものの、あの頃よりも背が伸び、目鼻立ちがもう幼い子供ではない。それどころか美しく艶をおびていっそう危うい雰囲気を醸し出していた。
宗助は一瞬見惚れたことを悟られまいと、邪険な態度をとっていた。自席に着く楽人が必死に何かを探していて、ああ、と合点がいった。
ロッカーに飾ってあった花瓶の水で吸っていたタバコの火を消し、楽人の元へと歩を進めた。後ろ姿でも楽人が涙を零しているのがわかる。
なにしろ幼い頃から緊張するとすぐにべそをかいていた。そしていつも声を殺して鼻も啜らずただ俯いて泣いていない振りをする。俯いた時点でたいていの人にはばれてしまっているのだが、本人は涙が零れたところを見られさえしなければ、泣いたことにならないと思っているらしく、ひたすら瞬きを我慢するのだ。
(成長したのは見た目だけか…?)
すぐ後ろに歩み寄った宗助に気付いた楽人が振り向けば案の定、大きなライトブラウンの瞳が潤沢の涙に濡れていた。
後ずさろうとするのを制し、ズボンのポケットから取り出したピンクのリボンを左胸に付けてやる。黒い学ランにピンクが映え、いかにも卒業生といった風情だ。
(良かったな。卒業出来て)
楽人の虚弱な体質を誰よりも知るだけに、感慨深いものがあった。
『卒業おめでとう』
心からそう思って発した言葉だったが、友達としての数年のブランクと片思いの相手であるという照れくささから、自分でも不自然さが恥ずかしくなるほどの固い声音になってしまった。
楽人も意味を計りかねたのか、覗き込むように見上げてくる。
無意識に、涙で濡れた頬と目元を両手で顔を包むようにして拭ってやると、楽人がゆっくりと瞼を伏せた。濡れた睫毛も親指の腹で拭ってやる。
白い肌に赤い小さな唇が物言いたげに薄く開かれていて、ぷくりと腫れたような上唇の真ん中を見ているうちに、自然と自らの唇を寄せていた。
柔らかな感触と胸を突き抜ける痛み。
大人しく、されるがままになっている楽人に煽られて、宗助は体の奥に疼くような、脳が痺れるような不快感を感じた。
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