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――欲情と嗜虐心。
――征服欲とサディズム。
宗助は自分の中にあるそんな欲望が信じられなかった。
楽人に触っていること自体に感じる罪の意識と、何一つこちらの事情など知らない楽人への苛立ちに、手荒く突き放した。
近づいてくる足音は間違いなくここに来るだろう。
そう思った宗助は入ってきた窓へと身を翻し、だが、そのまま立ち去ることは出来なかった。
楽人に何か言って傷つけてやりたい。自分だけが痛いなんて許せない。醜い自分に気づいてしまった宗助が咄嗟に言った一言は、確かに楽人の柔らかい心を抉ったようだった。
(好きならば、相手を痛めつけたいなどと思うはずがない…)
自室の天井を見ながら宗助は紫煙を細く長く吐き出す。
気付いてしまった思いは日に日に膨らむ一方で、宗助を苦しめ続けていた。元はと言えば、楽人の母親と宗助の父親の浮気が、宗助の平穏な日々を滅茶苦茶にしたのだ。
なぜ自分だけが苦しまなければならないのか。
なぜ楽人は何も知らずにいつまでも子供のように笑っていられるのか。
――憎らしい。
それは、もう楽人を無視して過ごせないほどに強い感情だった。
――ならば。
(汚してやるさ…身も心も。もう…二度と、あんな綺麗に笑えないように…)
ベッドに頭をあずけ、片腕で目元を覆った宗助の口元が、美しい三日月のように微笑まれていた。
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