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この青空の下、全力で走り回って生徒達とゲームを楽しみ、汗だくの頭に水を浴び…。今、彼が心地良い疲労感と高揚感に満たされているのが手に取るようにわかる。
「そうか? 背伸びまでしてあちこち見よるから、てっきり…」
「…てっきり。何ですか」
「惚れた相手でも探しとんのかと思ってな」
「………」
「あー。暑いなぁ。雨宮センセ、なんか飲ましてんかー」
「…麦茶で良ければ」
「ホンマ? 嬉しいなぁ」
理科準備室には冷蔵庫がある。毎年この時期に雨宮が麦茶を作って置くのは恒例で、矢代はそれを知っていて 『なんか』 と言ってきているのだ。喫茶店代わりにされているのか、雨宮に会うための上手い口実にされているのか。
後者だろうという確信は傲りだろうか。
では、そうと知っていながら矢代しか飲まない麦茶を作っておく自分は――…。
「ホンマ。好っきゃなー、潤」
「え?」
考えていた内容を見透かされたようで、一瞬どきりとした。
「何…ですか」
「麦茶に砂糖入れて飲むん。俺、潤以外に知らんわ」
「…あぁ」
特に自分が好きな訳ではなかった。昔、高校の持久走大会でゴールした順に貰える甘い麦茶が無性に美味しくて、それ以来、運動をした後に飲む飲み物として、一番にそれが浮かぶのだ。
そう。
この麦茶を作り始めたのは他の誰のためでもなく矢代のためだった。
雨宮は赴任した年から、夏休みに生徒達とグラウンドを走り回る矢代を見ていた。そして、水道の水をがぶがぶと飲んでいる彼に飲ませたいと思った……運動の後の甘い麦茶を。
ずっと室内にいた自分が飲んでもやはりあの美味しさは味わえない。甘さが体に染み渡るような、安心感にも似た感覚を目の前の男は感じてくれているだろうか…。
「でも、俺もコレ好きやで。なんか…ホッとするっちゅうか」
(え…?)
本当に、自分の考えが透けて見えているのではないだろうか…。雨宮は驚きに瞳を見開いて矢代を見た。教員用の机の端に腰を寄り掛けるようにして足を組み、紙コップを覗きながら最後まで飲み干していく。
ゴクリと大きな喉仏が上下するのを、なぜか妙に意識して見てしまっていた。
「潤の味やな。安心するわ」
ズキン。
――胸が…痛い。
「夏の間は…作ってありますから」
「うん?」
「夏休み中なら、いつでも…いらしてください」
「……おう。ありがとう」
穏やかな眼差しを見つめ返せない。
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