第1章

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突然告げられた絶交に、楽人は次の日から三日間学校を休む羽目になる。本来熱の出やすい体質ではあったが、これまではいつも傍らにいた宗助が何かと気遣ってくれていたため、健やかで平穏な暮らしが出来ていた。 楽人が授業に遅れを取ることなく小等部を卒業できたのは、宗助の努力の賜物と言っても過言ではない。 その頃すでに楽人には宗助が無くてはならない存在になっていた。同い年でありながら兄貴のように頼もしく、実際、全てにおいて万能だった宗助は子供ながらに持てるだけの愛情と誠意を持って楽人を庇護し、共に歩いてきた。 そんな宗助に理由もわからないまま絶交されてしまったことが、楽人の本来過敏な神経をより尖らせることになる。 何かと言っては熱を出し、出席の日数ぎりぎりのラインを毎年どうにかクリアし、やっとの思いで今日の中等部卒業式を迎えることが出来たのだ。 あの絶交の言葉以来、口を利くことも無くなった幼馴染の顔は、3年の時を経てずいぶんと大人びて見えた。漆黒のサラリとした直毛をワックスでラフな感じに立ち上げ、少し俯いた横顔は高い鼻梁と切れ長な目元、引き結んだ唇が美しくラインを描き、男らしく大人へと成長している過程をまざまざと見せつけていた。身長も伸び、あの頃の面影はすっかり薄れている。 一方、体の弱い楽人は成長が遅く、顔立ちも体つきも男らしさから縁遠いつくりをしている。もともと色の白い肌は夏の日差しに焼けても冬にはまた真っ白に戻り、色素の薄い母の血を受け継いだ栗色の髪と長い睫毛、大きく見開かれた、透けるようなライトブラウンの瞳が、紅をひいたように赤い小さな唇と相まって、まるで高貴な西洋人形のようだと口々に噂されていた。 本人の自覚をよそに―…。 「卒業式…出ないの?」 「………」 返事を期待してはいなかったが、こうもあっさり無視されると無音の数秒が再び下腹をキリキリと締め上げてくる。 体育教師の言葉を思い出し、楽人は本来の目的を果たそうと自分の席に着いた。が、机の中にも鞄の中にもあのピンクのリボンは見つからない。 (あれ? なんでないの) だんだんひどくなる腹痛。早くリボンを見つけたい。背中に刺さる宗助の視線を感じながら楽人はこみ上げてくるものを必死で耐えていた。 (泣くな。泣くな)
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