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…夏に宗助を宥めていた桜の葉もすっかり落ち、歩くたびカサカサと乾いた音を立てていた。土手下から吹き抜ける風も乾燥し、秋の匂いをたっぷりと運んでくる。宗助は日の当たるところを選んで腰を下ろし、後ろから来た矢代に隣を勧めた。
「もう肌寒いね」
「そやな。もう、秋も終いや、風が冷たい」
いつでも話を急かさない、この人の雰囲気が好きだったと、宗助は懐かしく思い出していた。
「中坊の頃、良くココで話したよね。先生と」
「おう、この土手は春の花見に夏の花火。秋の月見と打って付けやったしな。その代わり、冬はなーんも、出来ひんのやけど」
「星空観測が出来たじゃん。オリオン座、俺ココで見て覚えたんだもん。リゲルと、ベテルギウスと…。先生、俺ね、アメリカに行くんだ」
「アメリカ?」
「うん。親父の転勤でさ。…俺、今まで親父は女にしか興味のない、サイテーな奴だと思ってたんだけど、どうやらそれは、俺の思い込みだったみたいなんだよね。母さんと別れてから…親父、仕事に没頭してたみたい。それで今回、海外進出の先駆け部隊に任命されたんだってさ。…てっきり置いていかれるのかと思って話し聞いてたのに。父さん、俺に付いてきて欲しいって。向こうで暮らすことは俺にも将来プラスになるだろうからって」
「…そうか」
「うん。もう子供じゃないし、俺一人で日本に残っても平気だと思うけど。でも俺、向こうで自分を試したいんだ」
「試す?」
「そう。自分という人間を。もう、子供じゃないけど、でもまだ、大人でもないだろ? だから、今のうちに吸収したいんだ。いろんなことを。自分がどんな大人になるか、なれるか、…試そうと思う」
「早乙女…。いいのか?」
「…うん」
何が? なんて聞く必要なかった。
『小鳥遊のことはいいのか?』
この優しい体育教師の気遣いが、これまでどれほど心に沁みたか。
「いいんだ。楽人には何も言わずに行くよ。てか矢代先生にしか言わないって決めてたんだ。担任の先生と学校側には親父が直に話してくれたし、急な転勤ってことで。俺も、いろいろすることあるから…」
「なんか歯切れが悪いなぁ」
「え?」
「俺には何でも話してくれるんちゃうの?」
ちょっとバツが悪そうに宗助が俯いた。足元の枯葉を一枚拾って、指先でクルクルと回している。
「…実は、今日なんだ。渡米するの」
「何時?」
「夜8時。まだ余裕だよ。大丈夫」
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