第1章

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振り向いた先、馴染みの体育教師にチョイチョイと手招きされ、楽人は理科室の窓を開けた。カラカラと音を立てるアルミのフレームがひどく冷たい。吹き込んできた風も鼻がツンとするほど冷たくて楽人は首を竦めた。 (なんか…あったのかな) 矢代とは仲が良いが、彼が授業の合間、こんなふうに慌てて自分を訪ねてきたことなどない。 一抹の不安と共に長身の教師を見上げれば、案の定、瞳の奥になにか大事なものを抱えていた。 「小鳥遊。今日、俺が仕事終わるまで学校で待ってろ」 「先生…?」 「遅くても5時には仕事終わらせる。帰りはちゃんと家まで車で送ったるから、何も心配することない」 「…なにか…あったんだね?」 「待ってて…くれるか?」 「…うん」 いつもと違う矢代の口調に、きっと良くないことがあったのだと楽人は思った。 (きっと…宗ちゃんのことだ) 「先生…どこで…待ってたらいいかな」 「そう」 「ここに居たらいいよ、小鳥遊」 「じゅ」 「雨宮先生」 場所まで考えていなかった矢代の言葉にかぶせて、雨宮が二人のもとに歩み寄りながら声を掛けてきた。 「お久しぶりです。矢代先生」 「…お…おう」 トゲのある口調に矢代が一瞬ひるんだ。 「今日はその時間くらいまでなら、先生もいるから。ここに居ていいよ、小鳥遊。矢代先生に、帰りに寄ってもらえばいい」 「じゃあ…そうさせてもらいます。矢代先生、それでいい?」 「あ…ああ。…わかった。ええよ」 (矢代先生…?) どうも矢代の様子がおかしい。雨宮が会話に入ってきてから落ち着きがなく、目が泳いでいる。 「小鳥遊。矢代先生の用はもう済んだみたいだから、教室に戻りなさい。…放課後は勝手に入ってて構わないから」 「はい」 雨宮に促されて楽人は理科室を後にした。扉を閉めるときに見た矢代の顔は妙に赤くて、具合でも悪いのだろうかと、首を傾げてしまった。 「で? あんな可愛い美少年を拉致して、どこに行かれるおつもりなんですか? 矢代先生」 「拉致!?」 「わざわざ授業中にいらっしゃるなんて。…ずいぶんご彼に御執心なんですねぇ。…知りませんでしたよ」 「何言って」 ――チュ。 「…」 「…潤?」 胸倉を掴んで強引に窓の外にいる矢代を引き寄せた。雨宮が室内にいるおかげで身長差がなく、顔を斜めにして寄せれば簡単にキスができた。
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