第1章

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「好きじゃなくても…できるけどな」 「ウソだっ」 「ウソじゃない」 「じゃ…じゃあ…なんで…あのとき…あんな…こと」 「楽人が、俺でいいって言ったんだろう?」 「ちがうっ…こないだのことじゃなくて…理科室の…」 「楽…人…?」 「僕を傷つけたいだけなら、もっと他に方法はいくらでもあったでしょう? どうして? どうして僕を…」 犯したの…? 楽人の目が語っていた。 「おまえ…記憶…」 「憶えてるよ。宗ちゃんの悲しそうな顔も、声も、…涙も。ねぇ? どうして? 宗ちゃんっ」 自分の受けた痛みより、与えてしまった痛みのほうが遥かに辛いものなのだと…。 「…好きだったからだよ」 言わずに行こうと決めていたのに…。 「楽人のことが、子供の頃から好きだった。母さんのことがなくても、きっと俺はああしてたと思う。…だから、離れたほうが良いんだよ」 「なんで? しちゃいけないことなの?」 「おまえを…傷つけることになるから」 「傷なんかつかないっ! …傷ついてなんかいないっ!」 「楽人」 「傷ついてるのは…宗ちゃんのほうじゃないかっ」 「俺?」 「そうだよ…いつだって…宗ちゃんは辛そうで…」 「そうかも…しれないな」 自分が傷つきたくないから攻撃して。 守りたいからといって離れて。 結局。いつだって自分が傷ついていたくせに。――知らない振りして。 「だから。今は離れる」 「え?」 「俺はこんなにも弱いから。そう。好きな子に自分から告白もできなくて、勝手に傷つくくらい弱い男だから。…向こうにいって、自分を鍛えたいんだ」 「…帰って…くるよね?」 「どうかな。もう、二度と会えないかも知れないし。今度の夏休みにまた会えるかもしれない。…先のことはわからないよ」 「…待ってても、良い?」 「楽人の人生だ。楽人の好きなように生きればいい」 「じゃあ…待ってる。ずっと…待ってるから」 「…おまえが来るって選択肢はないのか?」 「行っても…いいの?」 「今決める必要はないってこと。もしそのときが来たら、そのときに決めよう、お互いに」 「宗ちゃん大好き」 「なんだよ。いきなり」 「だってもう…行っちゃうんでしょう?」 楽人がそらした視線の先を見ると、さっきまで先生たちと話していた父親が手荷物をもってゲートの手前で待っていた。 出発時刻まで、――もう間もない。 「そう…だな。いかなきゃ…」
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