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「向こう着いたら連絡してね」
「ああ。……楽人」
「なに?」
「愛してる」
ずっと、昔から。
――弟のように。親友のように。恋人のように。
きっと、もうこれ以上、自分にとって特別な人間は現れないだろう。
そう確信が持てる。
「宗っ…ちゃ」
「元気でな…」
「やっ…行かな…でっ」
「なんだよ、笑って送り出してくれないのか?」
「宗ちゃんが…んなこと…言うからっ」
「言わないほうが良かったか?」
「ううん」
「バカ」
可愛い楽人。愛しい楽人。大切な、…俺の楽人。
――お別れだ。
「さよなら。楽人」
「そんなの…言わないで」
「じゃ…なんて言うんだよ」
「さっきの…もう一回…言って?」
「そう何度も言わないよ」
「だって、驚いて返事できなかったんだもん」
「バカだな」
「いいから…言ってよ」
「もう、行かなきゃ。これが最後だぞ?」
「うん…」
「愛してるよ、楽人」
「僕も、愛してる…」
「じゃあな」
「あっ…」
一瞬だけギュッと楽人を抱きしめて、宗助は手も振らずに父親の待つゲートまで走り去ってしまった…。
「行ってもーたなぁ…」
「行っちゃいましたね…」
頭上から聞こえるつぶやきに楽人が振り返ると、矢代と雨宮が並んで立っていた。
「…先生」
「ん? ちゃんと、話できたか?」
「うん…矢代先生のおかげだね、ありがとう」
「おう。…早乙女、なんか言ってたか?」
「僕の人生なんだから僕の好きなように生きろって、言われちゃった」
「そか」
「だから僕。本当に好きなようにする。自分のしたいことが出来るように、色々勉強するし、体力もつけたい」
「おお。頑張れよ、小鳥遊」
「うん!」
「矢代先生、小鳥遊は…何か特別なんですか? 前から思ってましたけど、…とても仲が良いというか、親しいというか」
「それで嫉妬してたん?」
「……べつに…それだけじゃ…」
ごにょごにょと口ごもる雨宮に横顔で微笑み、矢代は首都高の分岐点を左へとそれていく。乗りなれたスポーツワゴンは、実業団で槍投げをやっていた頃からの愛車だ。
今でもOBとして大学の練習に顔を出し、槍を投げることも度々ある。そんな経緯で、矢代は使い慣れたこの車を手放せないでいた。
後ろのベンチシートに座っていた楽人は疲れたのかすっかり横になって眠っているのが、バックミラーに映っている。
「……」
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