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それを知って問いかけてきたであろうナビシートの恋人が、じっと矢代の答えを待っていた。
「似てたんよ。自分と」
「……小鳥遊が?」
鏡を見たことがあるのかと言わんばかりの強調された疑問形に、いやいやと苦く笑って首を振る。
「早乙女も、小鳥遊も。まだ子供で、でも相手を好きだと思う気持ちは本物で。お互いわかっているのに…どうにもならなくて。傷ついて」
「矢代先生にも…そんなことが?」
「俺の場合は、片思いやったけどな。…だから、似てるといっても程遠いんやけど、なんか…ほっとけなくて」
「そう…だったんですか」
「後は?」
「え?」
「なんかあったんやろ? 学校で。俺が小鳥遊と話してたくらいで…潤があそこまで妬いてくれるとは思えんし」
「中原…先生…が」
ちょうど車が首都高のガード下に入り、響く走行音が雨宮の声を掻き消す。
「ん?」
「いえ。なんでもないんです」
きっと中原は矢代のことが好きなのだ。矢代と雨宮の関係に感づいていても…。
だから、あんなことを言ったのだろう。
『しっかり捕まえておかないと、ホントに盗っちゃいますよ?』
それならしっかり捕まえておけばいいのだ。外野の声に脅えて矢代の気持ちを疑うより、自分の気持ちを信じればいい。
「ちょっと…不安になっただけです」
チラリと流し見る矢代に微笑みかけ、雨宮は窓の外に視線を移した。右手を、そっと恋人の膝にのせて――。
「潤」
「…はい?」
「小鳥遊送ったら…俺んちに来るか?」
「…はい」
右手をそっと包む矢代の大きな手が、――暖かかった。
おわり
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