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「そうなんだっ! あんなに仲が良さ気だったのに、恋愛はどう転ぶかわからないものだね。……そういえば、【青春】についての答えの中に、『失恋』って、入ってなかったかも」  言っている最中に、理空は思いがけず【青春】に対しての答えの一つに巡り合った。  それをヒントに、彼女は考える。  空井正は、【青春】は、『自分が過ごした人生の中で、若い頃に体験した楽しかったことに焦点を当て、そこのみを切り出された時間』と言っていた。  しかし実際の【青春】真っ盛りの時期では、甘いことや酸っぱいことばかりではなく、そういった苦いことや辛いことも訪れるのだ。  そういう意味では、そういった苦味、辛味も、【青春】に含まれるのだろう。  理空は、空井正の方に向き直った。  そして、ウトウトと舟を漕ぐ彼に、彼女はふっと湧いた疑問をぶつける。 「ねぇ、タダシ。タダシは、どんな【青春】を、送りたいと思う?」  その疑問に対して、空井正は眠たそうに答えた。 「だから…………言っただろ? 【青春】は実質的に、その人の過去の時間でしかない、と。だから、どんな【青春】を送るとか、そういう問題ではないんだ。【青春】は、自分の過去にあった出来事の捉え方によって、好き勝手に大きく変動する。つまり、逆に言うと、過去の時間でしか、【青春】は働かせることができないんだ。【青春】が流れているという真っ只中の時間は、暇な時間でしかないんだよ」  それを聞いて、理空は、大きく頷いて納得する。  確かに、そういう考え方もあるだろう。  けれども……と、理空は、彼の意見を考慮しつつ、反論した。 「でもやっぱり、【青春】が流れている真っ只中の時間を、自分にとって充実した毎日の時間にしていたら、【青春】の思い出が増えると思わない? そうしたらやっぱり、【青春】を謳歌できるように、なるんじゃないの?」  理空のその意見に、しかし空井正は、頭を振って否定した。  それから、衝撃的な言葉を口にする。 「そもそも、その原本からの問題だ。オレは、青春を謳歌しようとしていない」  そのことを耳にして、けれども、理空は驚かなかった。
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