1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうなんだっ! あんなに仲が良さ気だったのに、恋愛はどう転ぶかわからないものだね。……そういえば、【青春】についての答えの中に、『失恋』って、入ってなかったかも」
言っている最中に、理空は思いがけず【青春】に対しての答えの一つに巡り合った。
それをヒントに、彼女は考える。
空井正は、【青春】は、『自分が過ごした人生の中で、若い頃に体験した楽しかったことに焦点を当て、そこのみを切り出された時間』と言っていた。
しかし実際の【青春】真っ盛りの時期では、甘いことや酸っぱいことばかりではなく、そういった苦いことや辛いことも訪れるのだ。
そういう意味では、そういった苦味、辛味も、【青春】に含まれるのだろう。
理空は、空井正の方に向き直った。
そして、ウトウトと舟を漕ぐ彼に、彼女はふっと湧いた疑問をぶつける。
「ねぇ、タダシ。タダシは、どんな【青春】を、送りたいと思う?」
その疑問に対して、空井正は眠たそうに答えた。
「だから…………言っただろ? 【青春】は実質的に、その人の過去の時間でしかない、と。だから、どんな【青春】を送るとか、そういう問題ではないんだ。【青春】は、自分の過去にあった出来事の捉え方によって、好き勝手に大きく変動する。つまり、逆に言うと、過去の時間でしか、【青春】は働かせることができないんだ。【青春】が流れているという真っ只中の時間は、暇な時間でしかないんだよ」
それを聞いて、理空は、大きく頷いて納得する。
確かに、そういう考え方もあるだろう。
けれども……と、理空は、彼の意見を考慮しつつ、反論した。
「でもやっぱり、【青春】が流れている真っ只中の時間を、自分にとって充実した毎日の時間にしていたら、【青春】の思い出が増えると思わない? そうしたらやっぱり、【青春】を謳歌できるように、なるんじゃないの?」
理空のその意見に、しかし空井正は、頭を振って否定した。
それから、衝撃的な言葉を口にする。
「そもそも、その原本からの問題だ。オレは、青春を謳歌しようとしていない」
そのことを耳にして、けれども、理空は驚かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!