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「【青春】って、何だと思う?」  ナチュラルミディアムの黒髪を振り撒いて、理空は上機嫌にそう尋ねた。  そんな彼女の髪には、彼女のトレードマークである、太めで空色のカチューシャがつけられている。  最初の章と同じような始まりだけれども、現在、理空(ことわり そら)は部屋の中に居るため、カチューシャの色などは際立ったりしていない。 「その答えが、『幼児時代に使っていた自由帳』って…………タダシって、見た目に寄らず、案外ロマンチストなんだね」  理空(ことわり そら)はそう続けて、手を床につき、荷物を横に押し除けながら、押し入れの中に一歩分進んだ。  その様子を黙って見ていた空井正(そらい ただし)は、彼女の話を聞いて、しかし表情を変えない。  彼女の方を向き、やや目を吊り上げながら、彼女に文句を漏らした。 「おい、ソラ…………なぜお前は、今、オレの家で、オレの押入れを漁っているんだ」  ここで注釈を挟んでおくと……そう、ここは空井正(そらい ただし)の自宅である。  流堂の件があってから二日後の今日、日曜日の、学校が休みであるこの日に、理空は空井正の家に向かっていた。  そして、彼の家に着き、家の中に忍び込むと、まだ家の布団の中で熟睡していた空井正の部屋へ忍び込んだのだ。  ちなみに、理空が空井正を起こしたのは、故意にではなかった。  ただ、寝ていた彼の横を通ろうとして、偶然、彼の足の指先を踏んだのだ。  踏まれた彼は、どれほど寝起き後の機嫌が悪かったか…………それは、言うまでもあるまい。  理空は、そんな空井の家の押し入れの、さらに奥を探りながら、首だけ動かして、後ろにいる空井正に視線を向ける。  そして仏頂面の空井正に対して、笑顔を振り撒きながら、彼に答えた。 「だって、一昨日に言ったよ? 『ちゃんと答えなかったら、タダシの家に、勝手に上がりこむからね』って」 「あのあと、ちゃんとした答えを「しただろ?」 「でもあのときは、ちゃんと『暇な時間』って答えたように見せていたけれども、流堂くんの目の前で、『【青春】は落書き帳』だって、語っていたよね? そこから考えると、あれは、《ちゃんと》答えていなかったって、ことでしょ?」
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