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 自分の質問の虚を突かれ、空井正は一瞬戸惑いを見せた。  けれども理空はそんな彼の様子に気付くこともなく、押し入れの中を漁るのに熱中していた。  自分の動揺を悟られずに、ホッと胸を撫で下ろす空井正を尻目に、理空は押し入れの、奥の奥にある、段ボール箱の中を覗き込んで、喜びの雄叫びを上げる。 「――――あぁ! あった、あった♪」  もちろんのこと、実際に雄叫びを上げたわけではない。  比喩表現である。  それほど理空の気持ちが高ぶったということだ。  それはさておいて、理空は、押し入れの奥の奥にあった段ボール箱から、あるものを取り出した。  それは、幼少期の空井正の落書き帳であった。  落書き帳の表紙の端に、グシャグシャな字で『そらいただし』と平仮名で書いてある。  空井正は苦笑いを浮かべて尋ねた。 「なぜソラは、オレの幼少期に使っていた落書き帳を取り出した?」 「別にいいでしょ。見て減るわけでもあるまいし」  理空は、そう即答する。  すぐに言葉を返そうとして、空井正は言葉に詰まった。  その意見を聞いて、逆に、見て減るものの方が少ないのでは? と彼は考える。  彼女は眉間にシワを寄せている空井正の姿を見て、言葉を付け足す。 「それに、一昨日の、【青春】についてのタダシの答えを聞いたときに、【青春】は落書き帳だ、というタダシの、幼少期の自由帳には、どのようなことが描かれているんだろうって、興味が湧いていたの」  理空は上機嫌に、空井正の落書き帳を両手で持った。  緊張の一瞬であるかのように、ゆっくりと表紙を開く。  そして理空は、そこに訪れた想定外の光景に、目を見開いた。  あれだけ『【青春】は落書き帳だ』と語っていた、空井正の幼少期の落書き帳の中身は……
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