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――――白紙だった。
衝撃を受けた理空は、そのままの驚いた表情で、空井正の方を向く。
彼は、少し気まずそうに、言い訳を述べた。
「絵を描くのが、面倒だったんだ」
頭の後頭部辺りを掻きながら、視線を理空から外して、落ち着きなく彷徨わせる。
その様子を見て、理空は吹き出した。
そんな彼の、いつもと違う姿が面白かったということもあったけれども、白紙だった落書き帳の理由が、あまりにも空井正らしかったので、そこも笑いのツボにハマったのだ。
笑いを抑えようとしても、すぐに漏れ出してしまう理空を横目に見ながら、嘆息を吐きつつ、空井正は告げる。
「それに――――【青春】は、例えで表せるものじゃねぇよ」
その言葉に仰天し、理空の笑いが止まった。
不思議そうに首を傾けながら、空井正に尋ねる。
「え? でも、一昨日は、【青春】は『幼児時代に使っていた落書き帳』だ、って、言ってなかったっけ?」
それに対して空井正は、再度大きく嘆息を吐いて、質問に答えた。
「それは前にも言ったように……。悩み相談の場合は、相談相手の詳しい事情を把握して、背景を理解してから、その相手に見合った答えを探す方が良い。だから、あのときに流堂が欲していそうだった答えを、適当に述べただけだ」
それを耳にして、理空は絶句した。
呆けたような表情をして、彼の顔を覗き込む。
空井正の方は、さも当然だというように、話を続けた。
「そもそも【青春】というのは、『自分が過ごした人生の中で、若い頃に体験した楽しかったことに焦点を当て、そこのみを切り出された時間』、それに名付けられた名称だ。つまり、実質的に、【青春】は、その人の過去の時間でしかない。そこから総合的に考えると――――」
そこで一度区切り、少し間を置いてから、空井正は述べる。
「――【青春】は、自分の過去にあった出来事の捉え方によって、好き勝手に大きく変動する、【青春】を感じる者にとって都合のいいもの、ということだ」
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