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私は言葉を探していた。
この先に進むための。
確実な何かを手にするための。
この場にあるものを壊さないための。
……けれど、それは私の方だけだったようだ。
佐川にしがみついていた私の手を、彼が取った。
握り込んでくれるのかという期待は、すぐに消える。
彼が、私の手をそっと剥がしたからだ。
しゅるしゅるとしぼんでいくかのような熱に、焦りが生まれた。
「っ……」
何か言おうとして、顔を上げる。
けれど私のそんな焦燥を置いてけぼりにして、佐川はこう言った。
「……勝手なことをして、悪かった」
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