《12》

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  ゴトッ、という音がした。 佐川が手にしていたグラスを取り落としたからだ。 幸いひっくり返すことはなく、ただ音が派手に鳴っただけで済んだ。 「大丈夫ですか?」というバーテンダーの呼びかけには私が「平気です」と応じる。 周囲から少し注目を浴びたが、佐川にとってはそれどころではないのだろう。 いつもの彼とは様子が違っているように見える。 ……不謹慎にも、面白い、と思ってしまった。 表情にも出てしまっていたのだろう。 私を見て少し眉をひそめた佐川が、気を取り直してグラスをあおる。 「……おじさんをからかうものじゃないよ」 「誤摩化さないで」 先程までの緊張はどこへやら。 相手が動揺していることがわかると、自分は冷静になれるらしい。 「私は本気よ。きちんとした答えをくださるまで引き下がらないわ」 .
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