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ゴトッ、という音がした。
佐川が手にしていたグラスを取り落としたからだ。
幸いひっくり返すことはなく、ただ音が派手に鳴っただけで済んだ。
「大丈夫ですか?」というバーテンダーの呼びかけには私が「平気です」と応じる。
周囲から少し注目を浴びたが、佐川にとってはそれどころではないのだろう。
いつもの彼とは様子が違っているように見える。
……不謹慎にも、面白い、と思ってしまった。
表情にも出てしまっていたのだろう。
私を見て少し眉をひそめた佐川が、気を取り直してグラスをあおる。
「……おじさんをからかうものじゃないよ」
「誤摩化さないで」
先程までの緊張はどこへやら。
相手が動揺していることがわかると、自分は冷静になれるらしい。
「私は本気よ。きちんとした答えをくださるまで引き下がらないわ」
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