第1章 すれ違い

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第1章 すれ違い

「じゃあ奥さん運ぶ前に壁の傷とか一緒に確認して下さいね。廊下のここのクロスの傷、台所へ入るドアのここの欠け、それから・・・・・・」  今日は、七月末の日曜日、東京郊外のマンションに住む夫婦が離婚をし、奥さんと長女が引っ越す日の朝のことだった。 彼らは、十年の夫婦生活で小学三年になる女の子がいる。それと三歳になるオスのシーズー犬が一匹。 奥さんの名前は離婚で、元の姓になった井田優子(イダユウコ) 三十五歳、娘も母親の姓になり、井田沙希(イダサキ)九歳。 主人の木田和也(キダカズヤ)三十六歳と、オスのシーズー犬、クッキーはここに残る事に。  早朝から荷物の運び出しが始まった。食器棚は結婚当初の物だが、洗濯機や冷蔵庫は最近買ったばかりである。 テレビも買い換えたばかりだが、妻に持って行かれる。娘にやると思えば腹もたたないかと思ったカズヤであった。  ユウコが 「カズヤ、早くサキを連れてってよ、約束したのでしょ」 「ああ、そのことなんだけど、昨日の晩に電話があってさ、朝の内に一時間だけ仕事が入ったんだよ、ユウコは何時ごろ向こうに行くの?」 「引越しの人が十一時半頃に出ますって言っていたから、テルが車でここに来て一緒に行くの。だから向こうでお昼しようって電話したわよ」 テルはユウコの幼なじみで、高校は別々の学校だったが、大学で再び一緒になる長い友人である。 名前は、中島照美(ナカジマテルミ)三十五歳、 ご主人は、中島武(ナカジマタケシ)三十六歳、 一人息子の勇人(ユウト)十歳がいる。 タケシはペットの葬儀社をしていて離婚したユウコは、以前からそこに勤めている。 タケシとカズヤは大学時代に知り合った友人で、積極的なタケシが合コンで知り合ったテルミと付き合う内に、ユウコとカズヤを引き合わせ、二組ともゴールインということである。 カズヤが 「十二時前には帰るよ、その前に出るならサキを待たしておいて。サキと一緒にお昼ごはんを食べに行くよ。」 「なるべく早く帰ってあげてよ、向こうで片付けて、七時頃には向かえに来るからそれまでに帰ってきてよ。」  ユウコは新居を教えたくないのでサキを迎えに来ることにしている。 今後の連絡も電話ではなく、用事がある時はメールでやりとりをする約束をさせられていた。
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