第1章     もう一つの偽らざる思い

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これは少し卑怯なことなのかもしれないけれど、 この父とも母とも妹とも弟とも会うことがなかった この5年間、 (正確には父はほんの様子見程度に、 1年に一度か二度玄関に顔を出してくるくらいはあったし、 弟もその程度ほどの連絡はあった) 私は一方で心穏やかにも過ごせていたのだった。 つまり、 その間、 お金の無心で心が掻き乱されることがなかったのである。 私はその安らぎをも感じていた。 それは今までに得たことのない安らぎで、 それはなんとも心地よく、 家族と行き来できないつらさは時としてあったものの、 それと引き換えに 穏やかさというものを得られていたというのも また確かなのであった。
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