怯えた犬

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「おにぎり~おにぎり~」 ボクは歌っているこの人をしきりに観察した。 物凄く背が高い。それから怖いわけではないが無表情。 怒っているのかと思ったら怒ってない。 なんだかつかめない人。 でも悪い人ではないかもしれない・・・。 ボクははっとなって頭をフルフル振った。 油断は駄目だ。 でも、・・・。 「アツいっ!おにぎり!お米の輝き!!」 でたらめな歌をうたうこの人、悪い人には見えない・・・。 悪い人かどうかは分からないけど、少なくともご主人様の使いではない気がする。 ご主人様の周りにこんな人はいなかったし、きっとボクをこんなふうに扱いはしないと思う。 (だとしたら新しいご主人様なのかな・・・) きっとそうだとボクはひとまず納得した。 はっとした時、腰をかがめてじっとこっちを見つめられていた。 「おにぎりの作り方。握るだけ。」 え? 言葉の意味がわからない。 この人はボクの手を掴むと手のひらに暖かいものを乗せてきた。 「こうするんだ、そうそう、」 ボクは見よう見まねできゅっきゅっとした。 それを何回か繰り返した。 「かーんせーい」 たくさんのおにぎり(そう言うらしい)がお皿に並ぶ。 「さ、食べよう」 彼はそう言ってばくばくとおにぎりを頬張った。 ボクは唖然としてみていた。 「むぐむぐ、食べないのか?は!味噌汁がない!」 みそしる・・・? ボクは自分が握った小さなおにぎりを手にとった。 このご主人様は変だ。 今まで「食べないのか?」などと聞かれたことはないし、そもそもご主人様と時間を共に過ごすなんて一度もなかった。 ご主人様をチラッと見ると「おいしいぞ、ある程度は」と言われた。 ボクもご主人様の真似をしてパクっと食べてみた。 口の中にあたたかみが広がる。 食べ物を作ったことはないし、色々おかしな事ばかりだったけど、嫌な気はしなかった。 だけどおにぎりが上手く飲み込めない。 一生懸命飲み込もうとしていたらご主人様に止められた。
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