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「彩未、久しぶりにいっちゃんの顔を見た」
それでもまだ僕の背中を擦りながら、彩未は僕の顔をまじまじと見つめる。
そうだね──そう言いたかったけれど、それは言葉にはならず、僕はただ頷いた。
本当にそうだ。こんなに長く彩未と会わなかったことなんて、彩未が生まれてから初めてのことだ。
父親に連れられて僕と母親のもとを去った妹とは高校生になってから再会をした。兄妹というよりは友達と言ったほうがしっくりくるような関係なのは、違う環境で育ったせいなのかも知れない。
その妹がシングルマザーとして彩未を育てると決意したとき、僕は少しでも妹の力になれればと仕事が休みの日には妹の家に通って彩未の遊び相手になった。妹が仕事をはじめ、彩未を保育所にあずけるようになってからも時間さえあれば送迎もした。
幼い彩未が僕のことを父親だと勘違いしてしまうくらいに、僕と彩未は今までに沢山の時間を過ごしてきた。僕は彩未が大好きだったし、彩未だって僕にくっついて離れなかった。
それなのに、そんなに大好きな彩未でさえ、今の僕にはストレスの対象になってしまっているということが情けなくてならない。彩未に寂しい思いをさせている自分が腹立たしかった。
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