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不意に、悔しさや申し訳なさ、そのほかの様々な感情が涙となってボロボロと僕の中から溢れだした。彩未に気付かれないようと顔を背けたけれど、たぶん、もう遅かった。僕の背中を擦っていた彩未の手が止まる。
「いっちゃん?」
彩未が僕の前にしゃがむと、不安そうに眉尻を下げて僕を覗き込む。
「彩未が来ちゃったから、いっちゃん、しんどくなっちゃった?」
違う。そうじゃない──そう言いたいのに言葉が出ず、咽び声ばかりが洩れる。それでも彩未に気持ちを伝えなければと、僕は何度も首を横に振った。
「ほんとに?」と首を傾げる彩未に、僕は辛うじて搾り出した声で「うん」とだけ答える。「よかったぁ」と言いながら彩未は小さな指で僕の涙を拭った。その手からはやはり美味しそうな甘い匂いがする。
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