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 階段を上がる足を止め『来てる』と返信すると、すぐさまに『良かった。すぐ迎えに行く』と妹からのメールが届いた。  彩未のことが心配で一刻でも早くに状況を知りたいだろうに、僕が電話でさえも話すことがままならない事を知っている妹はどんな緊急な用件の時にでも電話ではなくメールで対応してくれていた。  妹の家から僕の家はそれほど離れてはいない。歩いてもせいぜい二十分程の距離だ。妹の移動手段は自転車だからもっと早くにここには着くはずだ。けれども、そうすると……  ぼくが立ち止まっている事にも気付かずにズンズンと階段を上がり続ける彩未の後ろ姿を見ながら僕は考える。彩未はまだ自転車にも乗れていないはずだった。大人の足でなら二十分の道程かも知れない。だけどこんな小さな子供の足でなら、どれだけかかったのだろう。途中には交通量の多い国道もあるし、街灯の少ない暗い道もある。よくよく考えてみると、過去に彩未がひとりで僕のうちに来たこともなかった。 「もう!早く付いておいで!」  声のするほうに目をやると、後ろに僕がいない事に気付いた彩未が階段の手摺りから顔を覗かせていた。強い口調の割には怒っているような表情はしていない。口元をへの字にしているものの少しおどけているようにも見える。  ここに来るまで、結構な冒険をしてきたであろうに、そんな様子は微塵も感じられない。半年ほど会わなかっただけなのに、こんなにも成長していたのだろうか。
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