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嘘でも彼女の機嫌を直させろよ。そうしたら振られることもなかったろうに。ざまあみやがれとは思うが、あとが大変なんだよな。あとが。
立ったまま呆れるオレに、珍しく真面目な顔をしたジンが言う。
「無理だよ。大事なことなのに、嘘はつけない。だからさぁ、――おれと付き合ってよ」
「は?」
「千穂ちゃんはおれの飼い主だから。ね?」
「――ああ?」
誰が飼い主だと眉を寄せたオレに返るのは、「千穂ちゃん」という笑顔だ。くそ、お前笑うんじゃない。
「振られたから、付き合ってよ」
「断る。つかオレはDVD返しにいくんだよ」
「かっこつけてDVDなんて言わなくていいから。それ、AVでしょ」
「DVD、だ!」
AVだったらなんだっていうんだ。オレは供給に授かってるだけなんだからな。ネット派もいるけども、パッケージの隅々まで見たいからオレはレンタル派だ。気に入った作品は買って置いておく派でもある。
「まあ、DVDでもAVでもなんでもいいや。千穂ちゃん返事はー?」
「オレは八千穂(やちほ)だっつの」
千穂ちゃんこと芝川八千穂(しばかわやちほ)はオレの名前で、小さな頃からジンは「千穂ちゃん」と呼ぶ。大学生のいまでも。何度「やめろ」と言ってもやめてくれないので、もう諦めている。
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