振られたワンコに恋人を!

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 嘘でも彼女の機嫌を直させろよ。そうしたら振られることもなかったろうに。ざまあみやがれとは思うが、あとが大変なんだよな。あとが。  立ったまま呆れるオレに、珍しく真面目な顔をしたジンが言う。 「無理だよ。大事なことなのに、嘘はつけない。だからさぁ、――おれと付き合ってよ」 「は?」 「千穂ちゃんはおれの飼い主だから。ね?」 「――ああ?」  誰が飼い主だと眉を寄せたオレに返るのは、「千穂ちゃん」という笑顔だ。くそ、お前笑うんじゃない。 「振られたから、付き合ってよ」 「断る。つかオレはDVD返しにいくんだよ」 「かっこつけてDVDなんて言わなくていいから。それ、AVでしょ」 「DVD、だ!」  AVだったらなんだっていうんだ。オレは供給に授かってるだけなんだからな。ネット派もいるけども、パッケージの隅々まで見たいからオレはレンタル派だ。気に入った作品は買って置いておく派でもある。 「まあ、DVDでもAVでもなんでもいいや。千穂ちゃん返事はー?」 「オレは八千穂(やちほ)だっつの」  千穂ちゃんこと芝川八千穂(しばかわやちほ)はオレの名前で、小さな頃からジンは「千穂ちゃん」と呼ぶ。大学生のいまでも。何度「やめろ」と言ってもやめてくれないので、もう諦めている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加