第1章

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  「詩季、準備は出来ましたか?」 襖の向こうから、母さんの声が聞こえる。 着替えた着物の袂を、鏡を見ながら整えて… 一度小さく頷いてから、背筋を伸ばすと気持ちが切り替わる気がする。 「ん、もう大丈夫だよ。待たせてごめんね」 「ふふっ、今日の着物もとても似合ってるわよ。 今日も、あまり気負わず皆さんに綺麗な華を見せてきてあげてちょうだいね?」 ふわりと柔らかく微笑む母さんは、息子の僕が言うのもなんだけれど…とても美人で、癒されるっていうのはきっとこういうことを言うんだろうなって思う。 そう言えば、静流くんもこんな感じの柔らかい笑顔を浮かべるよなぁ…って頭に過ったのは、クラスメイトの顔。 そんな、とりとめもないことを考えて、緊張を和らげようと試みるのはいつものことで…。 本当は、今にも口から心臓とか胃とか… なんかもう、色々と出てきちゃいそうなほど、緊張で気持ち悪いです…。 何度やっても、こういう…展覧会っていうかパフォーマンスみたいに人前で生けるのは、ホント慣れないし…どうしても、こう…ビクビクしてしまうんだよね…。 同じ、人を相手にする仕事でも、華道教室でほのぼのわいわいの方が好きなんだけどなぁ…。  
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