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白の世界。
それが檜山(ひのやま)暁の世界である。
その世界の名前は九重坂医学研究所。医療の発展のため、新薬開発を始めとした研究を行っている施設が俺の世界であり、檻の名前だ。
そんな場所にモルモットとして――モルモットのように、ではない――俺が拘束されているのには理由がある。
――不老不死。
言葉にするとなんと馬鹿らしいことだろうとは我ながらに思うが、どうもそれが自分という人間に与えられた《個性》らしい。
それは一体いつから備わっていたのか。正確な時期は自分にも分からない。
ただ、電車の脱線事故に遭って、搬送されたここの附属病院に入院して一週間も経つかどうかってところで引き取られたんだからあの事故がキッカケといってもさして違いはないだろう。
「おはよう、檜山君。調子はどうかしら?」
「……退屈で死にそうですよ」
「ふふっ。死なないのに面白いことを言うのね。そういうジョーク、あたしは好きよ?」
「……」
唯一の扉からかけられた言葉に暁は非難がましい視線を扉越しに突き刺す。
しかし扉の向こう側にいる人物は堪えた様子がない。ガチャリ、と外から施錠するタイプの扉を開け白衣を纏った女が踏み込んできた。
名は鼎(かなえ)。鼎というのが果たして姓なのか名字なのかは分からない。
ただ「鼎よ。気安く呼んで頂戴」と言われただけなのだ。それに自分自身、相手の名前なんてどうでもよかったので対して気にはしてこなかった。
「あら、怖い顔。綺麗な顔に皺ができちゃうわよ?」
「俺、不老ですからね。皺なんてできませんよ、きっと」
「うふふ、そうねぇ。本当に羨ましいわぁ。あたしもあと数年出会うのが早ければ良かったのに」
「で、用件はなんですか?」
「あら、スルーするわけ?」
「用件がないなら出てってくださいよ。俺はあなたの玩具じゃないんです」
「そうね、玩具ではないわね」
仕方ない、とばかりに肩をすくめて言い返してくる鼎さんにあからさまなまでに不機嫌を装いながら俺は彼女の用件を待ち続けた。
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