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やめて。
私は何も、知らないの。
何も、わからないの。
これ以上
私の心をぐちゃぐちゃにするのは
やめて。
少女は強く強く、少年を睨んだ。
ぽたぽたと落ちてくる透明な水滴に構わないで。
「よく聞いて」
少年はにこやかに微笑んでいた。
いつかのように。
懐かしい日々を思い出すかのよつに。
「僕は君を、愛していた」
やめて。
何度も何度も、言わないで。
いやいやと頭を横に降る少女の首に
少年の両手がそえられた。
少女はふっと笑った。
私がこわせないのなら
あなたがこわしてよ。
少年の手に力が込められた。
少女は苦しみを覚悟した。
しかし、苦しみが少女を襲うことはなかった。
少年の手は
少女の頭と背中を支え
抱き起こした。
「君は、ここで生きていくの?
ずっと、知らないフリをするの?」
少年は祈るように
少女の手を握った。
何、言ってるの?
私はもともとこの世界で生きていたし
私はもともと何も知らなかったの。
でも、あなたがいろんなこと
教えてくれたでしょ。
でもね。
私、思い出したの。
ひとつだけ。
あなたとここで生きていくために
必要なこと。
私の
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