第1章

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少女がひとり ただぼうっと虚空を見つめていると 少年がひとり そうっと少女の側に寄ってきた。 「やあ」 少年は言った。 少女はゆっくりと少年を見据え、首をかしげた。 少年は一言も話そうとしない少女の隣に腰を下ろした。 「やあ」 少年はもう一度そう言った。 「…やあ」 少女は少年を真似て言った。 少年はゆっくりと話し始めた。 少年はなんでも知っていた。 少女の住むこの場所のこと 変わりゆく空のこと いつかほろびた時間のこと 少女に何もかもを教えた。 少女は何も言わず、じっと聞き入っていた。 なにも知らないことに慣れていた少女は、多大な量の情報に戸惑い、興味を示した。 少女は少年に教えてもらったことを全て記憶した。 その情報を誰かに教えるでもなく、ただ記憶し続けた。 少女はあるとき、少女自身の名前はなんというのか、少年に問うた。 少年は答えなかった。 何も 言わなかった。
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