1人が本棚に入れています
本棚に追加
少女は闇の中にいた。
右も左も
上も下も
前も後もわからない。
こんな場所は初めてだった。
否、少女はただひとつの場所しか知らなかったのだが。
少女はつま先からゆっくり動かし 歩いた。
歩き続ければ光があると信じて。
しかし少女の願いも虚しく
光が見えることはなかった。
自分がきちんと歩けているかわからなかった。
少女は少年の名前を呼ぼうと
喉を震わせた。
けれど、発せられるのは
意味を持たない言葉ばかり。
少女は今更気付かされた。
少女は少年の名前すら知らなかった。
知らなくても
名前を呼ばなくても
不自由のない場所にいたから。
最初のコメントを投稿しよう!