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少女は足を止めた。
必死に、目をこらして
光を 少年を 探した。
少女の目には涙が溜まっていた。
少年の名前を呼ぶことができたなら
少しはその感情が和らいだかもしれなかった。
ぽろぽろと涙がこぼれた。
少女はうずくまり
耳をふさぎ
少年の姿をそうぞうした。
強く、強く
覚えているままの少年の姿を。
「やあ」
少年の声を聞いた。
きつく耳をふさいでいたのに?
少女は目の前に佇む少年の姿に
おどろき
よろこんだ。
___やあ。
涙の滲む声で少女は言った。
少女は立ち上がり
少年を抱き寄せようと
腕を伸ばした。
しかしその手は
少年を当然のようにすり抜けた。
少年は何事もないかのように微笑んでいた。
その微笑みはあの少年のそのものなのに
どうして
触れることができないの?
そもそも少女は
少年に触れたことが
一度でもあっただろうか?
なかった。
今の今まで、一度も。
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