第1章

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       切札/2  紫ノ上島 <新・煉獄> 午前2時00分 「ええかーっ! 皆の衆っ!」  <新・煉獄>前の道路に、生き残った参加者たちは集められていた。  彼らを前に、バットを持った飛鳥が高々と宣言する。 「これより我々は修羅に入るっ! 仏と会えば仏を斬り! 鬼とあえば鬼をぶん殴る! <死神>も狂人鬼も、問答無用にぶっ飛ばせ! それが我らのディステニィー! 自分たちが生き残るため、我らはこれより修羅になるンやぁぁぁーーーっ!!」 「……お…… おう……」  ハイ・テンションな飛鳥とは対極に、全員白けた様子だ。それでも一応、半分くらいは同じように拳を上げてくれた。 「なんかどこかで聞いたセリフ……」  と宮村が呟く。 「ついでに言えばdestinyじゃなくて、この場合はfateが正しい」  宮村、片山、田村、岩崎、そして宮村を除いた三人と面識のあった後発参加予定のタレントの佐々木稔(27歳)の五人は、一団から離れた場所で勇ましくボケる飛鳥を生温かく見守っていた。 「ずいぶん濃い子だけど、あの子新人芸人か?」と、普通にリアクションしたのは佐々木だ。 「飛鳥ちゃん、元気ねぇ…… あの子、別にサクラちゃんがいなくてもあのキャラなのね」  そういったのは田村だ。  飛鳥は<新・煉獄>に戻ってからしばらく元気がなく黙っていたが、15分くらい経過したとき、「腹へった」と言うと非常食を貪る様にかっ込み、コーラで流し込み食べ終わったときにはいつもの飛鳥に戻っていた。 「状況は変った! 拓ちんが帰ってくるまでは全員戦闘態勢や!」  飛鳥は力強く宣言し、今動くことが出来る生存者を全員集め、自分たちの状況を改めて教え、生きるために戦うことを徹底させよう、と提案した。  その提案に片山たちは即諾しなかった。戦闘未経験の人間にいきなり戦えといってもすぐに覚悟ができるものではないし、攻撃を受けた時の二次感染の危険も大きい。抗体薬の投与はうけているが、試薬で完全なワクチンではなく、実情を知らない彼らにとってどこまで効果があるかは分からない。拓が戦闘者を選別したのはそういう理由からだ。少なくとも、最初からの参加者は数度の戦闘を経験し、銃器の扱いも慣れるというほどではないにしても扱いは覚えた。
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