花橘の香り

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その後も美観地区をゆっくりと歩いた。 観光案内所の倉敷館や考古館、民藝館など主要な施設を巡る。 そして、行く先々で、かすかなシトラスの残り香がある。 これは街の香りなのかと疑ってしまいそうなほど行く先々で香っている。だけど、そんな香りのことはガイドブックのどこにも書かれていない。 ということは、やっぱり。 さっきの人がここにも来たのかな? すれ違った時、そんなに強烈な香りがしたわけではなかった。それこそ、今と同じくらいかすかなものだった。 気になってるから、意識しちゃって、強く感じるのかな。 思い出せなくて諦めるのに、歩くたびに意識が香りへと引き戻される。 まるで思い出せと言われているかのように。 香りに導かれて進んでいる錯覚に陥りそうな、不思議な感覚を味わいながら街を歩いた。
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