花橘の香り

白壁の屋敷を横目に川沿いを歩く。

柳が風に揺れ、ふわりと水面が揺らぐ。

日頃の疲れを吹き飛ばしてしまうような景観。

流れている空気が全然違う。

だから私もその空気に合わせてゆっくり歩きたくなる。

まるで、どこか違う世界に迷い込んだみたいだった。

この世界を記録したいのか、写真を撮っている人があちこちにいる。

もちろん私も小さなカメラを持ってきてはいるけど。でも、この美しい世界を切りとることなんてできるのかな。

ううん、私にはきっと無理だ。

これは、長方形のデータではなく、この目に焼き付けて残したい。この空気と風と香りと。

そう思って、そっとカメラを鞄の中に収めた。