scene 30

3/9
1189人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
先生は決定的な波風を立てる気はないのだ。 それでも夜になるとメールがしたくなる。 電話がしたくなる。 声が聞きたくなる。 抱きしめて欲しくなる。 理由を聞きたいし、聞きたくもない。 もしかしたらこの気持ちを創作の力に変えられるのではないか。 他の欲望を抱え込む隙間をなくしてしまうくらい、仕事にのめり込みたいとさえ思った。 自制心をどうにか効かせて、剥き出しにしてしまいたい心を毛布に包んで眠るしかなかった。 二人が同時に、同じ速度や重さで愛を貫くことなんて不可能だと、これまで経験してわかっていることだったのに、その事実に改めて愕然とした。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!