1200人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当にそう思ってるの?」
「ああ」
英彦は何を考えているのだろう。何を知っているのだろう。
言ってしまいたかった。
姉のことも全部打ち明けて、英彦のためにも一緒になることはできないのだと言ってしまいたかった。
でもそれは、とても卑怯なやり方に思えた。
私は姉を理由にして、綺麗に別れたがっている。
英彦にこれまで打ち明けなかったのは、いつか別れることがわかっていたから、打ち明ける必要がないと考えていたのかもしれない。
「瑞乃は、言ってもどうせ、なにも変わらないって思ってるだろ。だから何も言ってくれなくて、どんどん自分の中に溜め込んでたんだろ。俺には修正するチャンスも与えてくれなかった。それだけじゃない。俺に何も聞いて来ない。どこに行くのか、何時に帰るのか、俺が君のことをどう思っているのかも、将来はどうするつもりなのかも」
それだけを言うと英彦は立ち上がった。
「荷物は、明日取りに来るから」
こんな時間に、出掛けようとしている。
英彦が今夜どこに行くのかもわからない。
英彦に、行く場所なんてあるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!