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思い返せば、連絡をしてくるのはいつも先生だった。
でもここ数日、連絡はなかった。
私も英彦とのことがあって、気にかけてはいたものの、なにもできずにいた。
「最近、連絡してくれなかったじゃないですか」
「なにかと忙しくて」
久し振りに聞いた声は、疲れた声が滲んでいた。
「それだけ?」
「それだけって?」
「他に可愛い女の子でも見つけたのかなあと思って」
「瑞乃はいつも、そういう言い方をするんだな」
いつもとは口調が違う。
そう思ったのは気のせいだろうか。
「しばらく仕事が忙しくなるかもしれない。海外からの留学生が来るんだ」
「英語なんて話せるんですか?」
「ああ」
いつもなら、こんな短い返事はしない。
もっと気のきいた言い回しで、冗談の一つでも言ってくれるはずだ。
しばらく沈黙が続いたあと、先生が言った。
「これから会えるか?」
「無理しなくていいですよ」
会いたくてたまらなかった。
それなのに、そう言ってしまったのは、先生は無理をしようとしているのではなく、覚悟を伝えようとしているのではないかと思えたからだ。
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