scene 29

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思い返せば、連絡をしてくるのはいつも先生だった。 でもここ数日、連絡はなかった。 私も英彦とのことがあって、気にかけてはいたものの、なにもできずにいた。 「最近、連絡してくれなかったじゃないですか」 「なにかと忙しくて」 久し振りに聞いた声は、疲れた声が滲んでいた。 「それだけ?」 「それだけって?」 「他に可愛い女の子でも見つけたのかなあと思って」 「瑞乃はいつも、そういう言い方をするんだな」 いつもとは口調が違う。 そう思ったのは気のせいだろうか。 「しばらく仕事が忙しくなるかもしれない。海外からの留学生が来るんだ」 「英語なんて話せるんですか?」 「ああ」 いつもなら、こんな短い返事はしない。 もっと気のきいた言い回しで、冗談の一つでも言ってくれるはずだ。 しばらく沈黙が続いたあと、先生が言った。 「これから会えるか?」 「無理しなくていいですよ」 会いたくてたまらなかった。 それなのに、そう言ってしまったのは、先生は無理をしようとしているのではなく、覚悟を伝えようとしているのではないかと思えたからだ。
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