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ふと、ホームの先に開いた暗闇は次の駅へ繋がっているのではなく、どこかに空いた穴へとすっぽり落ちているのではないかと想像することがある。
電車に乗った私たちは地下を移動していると信じているだけで、実際には空間を飛び越えて次の駅へ降り立っていることに気づいていないだけではないのだろうか。
あれから先生からの連絡はなかった。夏休みが始まり、街が賑やかになる中、私は一人ぼっちだった。
そうか。そういうことだったのだ。
きっと奥さんが引越してきて、一緒に暮らし始めたに違いない。それならそうと言ってくれればいいのにと思う。
度を越して執着せず、抑制を忘れなければ続くと思っていた。
でも、これは二人だけの問題ではなかった。先生には先生の事情がある。
最初からわかっていたことだ。
いつかは別れるときがくる。
こんな三ヶ月にも満たないくらいの出来事なら、死ぬときには、何もなかったに等しい記憶になっているに違いない。
そうやって諦めるしかなかった。
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