scene 30

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泰輔さんと話していたら、気持ちが落ち着いてきた。 さっきまでは、風の気持ち良さも気にかけていなかったけれど、ふと自分の中に区切りをつけると、この世界のいろんな音が聞こえてくる。 「諦めました」と私は言った。 「きっと奥さんが引っ越して来たんですよね。奥さん、仕事が忙しくてまだ函館に残ってたんですよね?」 「そうなの?」 「仕事かどうかは、はっきりと聞いたわけじゃないですけど」 「アイツ、仕事なんかしてたのかな? 」 「今頃、奥さんとうまくやってるんじゃないですか」 口に出してしまったらスッキリした。 「よしっ。思いっきり飲みに行くか」 いっそのこと、このまま泰輔さんとホテルにでも行ってしまいたい。 数少ない先生との思い出は、ピッタリと蓋をしてしまえば、もう二度と開かないだろう。
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