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リュウさんの店で、パアッと飲もう。
泰輔さんにそう言われて、思い切り飲みたい気分になって店までやってきた。
店の前までは、もう大丈夫と思えるくらい陽気だったのに、泰輔さんの声に、思わず身体が強張った。
「いたのか」
せっかく断ち切ったというのに、時間をやり過ごしたというのに、カウンターに先生が座っているのを見つけて動揺してしまった。
「また一緒だったのか」
そう言われたときには、悲しさよりも悔しい気持ちをぶつけたかった。
「怒ってるんですか?」
先生は何も答えてはくれない。
視線を合わせてもくれなかった。
「リュウさん、俺帰ります」
そう言うと先生は立ち上がる。
私は引き留めることもできずに、先生が財布の中からお金を取り出す動作を、じっと見ていることしかできなかった。
「瑞乃ちゃん、ほっとけ、ほっとけ。勝手に捻くれていればいいんだよ。瑞乃ちゃんが彼氏と別れて、自由にやってるのが気に食わないんじゃないの」
泰輔さんがそう言うと、先生の表情が変わるのがわかった。
「あれ、水島知らなかったのか?」
俺には関係ないと言われるのかもしれない。
「俺はてっきり彼氏と別れて水島と付き合うのかと思ってたけど、そうじゃないんなら、俺にもチャンスはあるわけだ」
先生は何も言わずに出て行った。
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