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「あれは相当無理してるな」
「無理をしてるんじゃなくて、鬱陶しくなっちゃっただけのことですよ」
わざと冗談っぽく言ってみる。
口に出して見ると、本当にたいしたことではない気がしてきた。
「わざと言ってくれたんですよね」
「なにが?」
「別れたこと、先生は知らないって、私言いましたよね」
「なかなかの演技だったろ? もし瑞乃ちゃんの作品が映像化されるときには、主演に抜擢してくれよ」
「そんなことより、追いかけなくていいのか」
リュウさんが、心配そうに尋ねる。
「かえって、吹っ切れました。ここ最近、別れようって言われる気がしてましたし」
「お似合いだと思うけどな。水島と瑞乃ちゃん」
「そうかな。俺の方が似合うでしょ」と泰輔さんが横から口を挟む。
「泰輔も瑞乃ちゃんも、あんまり水島のこと、いじめるなよ」
「いじめてなんか」
いじめてなんかいない。
いじめられているのは私の方だ。
「実はさ、俺見たんだよな。恭子が男と歩いてるの」
恭子。
それが先生の奥さんの名前なのだろう。
「まさか。あいつは浮気したりしないタイプでしょ。しかも、こっちに引っ越してきてるなんて聞いてないし」
「もしかしたら水島とはとっくに別れてるんじゃないかなと思って」
「離婚したら言うでしょう」と泰輔さんが言う。
「瑞乃ちゃんをここに連れてくること自体、おかしいんだよ。あいつが女の子連れて来たこと、今までなかっただろ」
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