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『エコ』の本名はエクトル。プエルトリコからの留学生で、NK大学ビジネスファッション学部に通う1年生。
褐色の肌。はっきりとした目鼻立ち。……愛称は女の子みたいだけど、エコはれっきとした男だ。
俺たちは半年前、ランゲージ・エクスチェンジのサイトで知り合った。
ランゲージ・エクスチェンジは週4回ペース。俺が日本語を教える代わりに、エコはスペイン語を俺に教えてくれる。
絶え間なくあっているせいか、今では気の置けない友人だった。
エコは急に鞄の中からごそごそと何かを取り出した。
「ショウみてみて! エコはカメラ買いました!」
「はいはい、よく頑張りました」
俺は自分よりずっと背の高い、エコの頭をぽんぽんとたたく。
はしゃぐエコの話を聞いていると、ふと、待ち合わせの人物が視界に入った。約束の時間の、5分前。
男は落ち着きなく辺りを見回してる。
「俺もう行くね、エコ。アディオス」
「あ~、ショウー……」
飼い主に捨てられた猫みたいに情けない声で鳴くエコを置いて、コートの襟を正す。
俺は挙動不審の男の前に立って、営業スマイルを浮かべた。
「寒い中、お待たせしてすみません。……高峰さんですか?」
男は俺を見て、安堵の笑みをこぼした。
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